■マコの傷跡■

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chapter 26



~ chapter 26 “悩み” ~




私は社会人になった。
家から彼の家に行くちょうど間くらいにある会社に1時間半かけて毎日通った。
毎日残業が多く、仕事が終わると真っ直ぐ家に帰るか彼の家に行く。
寝る為だけに家に帰る生活だった。

彼とはとても仲が良かった。
人間が産まれる前、対だったのなら私の相手はきっと彼だったろうと思うほどに。
私は時間が許す限り彼と一緒に過ごしていた。

でもそのうち私は私の生活の全てが彼で構成されていることを不安に感じ始めた。
彼の事は好きだ。そのうち結婚しようという話さえ出ている。
けれど今の私はちっとも自分で作った物を持っていない。
いつでも彼と一緒に居て、彼の友達と、彼の趣味である波乗りに行き
服も髪型も、話し方さえ全部彼の好みに染まっていた。

彼の友達は「男女間に友情はあり得ない」という考え方の人達だったから
私はいつまで経っても「友達」じゃなく「彼の彼女」でしかなかった。
もしも、ここで彼が居なくなったら、私には何が残るんだろう?
あるのは彼が好きな私。彼に作られた私。
彼を取り巻く世界はとても居心地が良く私は完全に彼の世界に取り込まれていた。
どっぷり浸かって私はこのままどんどんバカになってしまう感じがした。
彼が彼の世界を持っているように、私も私の世界が欲しかった。
私は私の友達と、私の趣味を持ち、自分で作り上げた性格と考えを持つ・・・。
「○○の彼女」という私以外の私が欲しかった。

彼と過ごす時間を減らし、自分で時間を使ってみても上手く使えなかった。
「○○の彼女」という私の場所がある限り私はそれに甘えてしまう。
あまりにも居心地が良すぎて「このままで何がいけないんだろう」と思ってしまう。

でも私は「これが私です」と思える何かが欲しかったのだ。
自分でもよくわからない焦りに私は悩んでいた。
ただただこのままではいけない気がしていた。

私は一体何を掴みたがっているのか、その時の私にはよくわかっていなかった。

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